「テーマパークのような写真館」を運営する企業が70年取り組み続ける、地域に幸せな家族を増やすという挑戦【株式会社田村写真館】

「あそこで写真を撮れるから、このまちに住みたい」

そう思わせる写真館が、小山市にあります。

写真館の名前は、「天使の森」。
その空間は、「写真館」と聞いて私たちがイメージするものとはずいぶん違っています。はじめて訪れた方は、まるで絵本の世界に迷い込んだような空間に、「え!これが写真館なの!?」と驚くかもしれません。

それもそのはず。「天使の森」はただの「写真館」ではなく、「テーマパークのような写真館」をコンセプトにした、家族が1日を楽しく過ごすことができる滞在型の施設なのです。

写真館としては型破りな事業に挑戦しているのが、1950年の創業以来、栃木県で事業を続ける「株式会社田村写真館」。
そのユニークな挑戦の背景に、代表取締役社長・田名網勝さんをはじめとするスタッフが持つ、人生、家族、地域、そして社会の未来に対する想いがありました。

家族で楽しく過ごせる、テーマパークのような写真館

JR小山駅から車を10分ほど走らせると、教会を思わせる白い建物が見えてきます。

教会や結婚式場と間違えそうですが、立派な写真館です。

ここが、「天使の森 小山ルミナス」。
株式会社田村写真館が運営する写真館「天使の森」の第一号店として2000年にオープンした施設です。

「天使の森」がユニークなのは、「テーマパークのような写真館」をコンセプトに掲げ、家族が1日を楽しく過ごせる店舗づくりを推進している点。

撮影スタジオは、自然光が差し込む空間やバラ園のような背景の空間、和風の空間など、さまざまなシチュエーションのものを用意。ドレスルームと美容室でおめかししてから、ここでしか撮れない1枚を撮影することができます。

まるで絵画のように、窓から光が差し込む撮影スタジオ。


バラ園のような撮影スタジオ。ドレスが映えそうです。


こちらは和風。シチュエーションに沿った多種多様なスタジオを用意。


着物だけで500を超える圧巻のドレスルーム。

さらにおどろくべきは中庭。まるで絵本の世界に迷い込んだような空間が広がっています。

スタジオではなく、本物の中庭です。

このような木漏れ日やレンガの小道、可愛らしいつくりの小屋をいかして撮影をすることができるのです。考えただけでワクワクしてきませんか?

ここ「小山ルミナス」がオープンして以降、「天使の森」の店舗として2005年には「宇都宮ヴィラージュ」、2009年には「佐野オリヴィエ」が開業。「天使の森」全体では、年間延べ7000組以上の家族が利用しているそうです。

写真館と侮るなかれ。パン屋さんにも負けない本格派です。

「天使の森」のユニークな取り組みは、店舗づくりにとどまりません。

「天使の森」で撮影をおこなう家族向けに、会員制度「森+moritas.」を運営。毎年2月頃に開催される無料撮影会への招待や、会報誌『森+moritas.』の発行など、顧客との継続した関係性づくりにも力を入れています。

写真が、人や家族、地域の幸せにつながると信じている

いったいなぜ「天使の森」は、写真館の常識をくつがえすような取り組みを次々に打ち出しているのでしょうか。株式会社田村写真館の代表取締役社長・田名網勝さんは次のように語ります。

田名網さん
田名網さん

『テーマパークのような写真館』というコンセプトにあらわしているように、『天使の森』は写真を撮るだけの場所ではないんです。
家族が1日を楽しく過ごしながら、絆を深めることができる時間と空間を提供しているんですよ。

 

写真館でありながらパン屋をつくった背景にも、「家族が1日を楽しく過ごせるように」という想いがあるのだとか。

田名網さん
田名網さん

天使の森だと複数の衣装やメイクでの撮影をご希望になるお客様が多いので、長丁場になることも多いです。午前中撮影して、お昼ご飯を食べて、午後にまた撮影……ということもあります。
以前はお昼を外に食べに行っていただいてたのですが、テーマパークみたいに敷地のなかに食事をする場所があったら、より特別な1日を過ごせるはず。だから、パン屋をつくることにしたんです。

田名網さんの話を聞いていると、「天使の森」のみなさんが向き合っているのは単なる「被写体」ではないことが伝わってきます。それはその人の人生であり、家族の幸せであり、地域や社会の未来であるようです。

田名網さん
田名網さん

小さい頃から写真を撮らせていただいていた女性から、お手紙をいただいて。どうやら、お父様が亡くなってしまったそうなのです。
でも、『家族写真を見返すと、父と一緒に過ごした夢のような時間を思い出すことができて、感謝してます」と。そんなふうに、1枚の家族写真が、ある人にとって大きな意味を持つことがあるんですよね。


天使の森で行っている会員向け無料撮影会での撮影は、年間1700件。撮影会の日は、朝から晩まで15分刻みで撮影し、大忙しになるそうです。

田名網さん
田名網さん

大変ですけど、1年で1700枚、10年やったら17000枚も家族写真が増えるわけでしょう?
1枚でも多く家族写真を撮らせていただくことが、世の中を幸せにすることにつながると信じているから、やりがいがあります。

一人ひとりの撮影に全力で取り組んでいます。

目指すは、世界に誇れる日本一の写真館

現在多くの方が利用している「天使の森」。ですが全国に目を向ければ、少子化やデジタル化、さらに新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、写真館の数は減少しています。

小山市でも少子化は進んでおり、七五三の撮影の件数が減るなど、「天使の森」も時代の流れの影響を受けています。そこで「株式会社田村写真館」では新たな事業を視野に入れているそう。そのひとつが、企業向けの撮影サービスです。

田名網さん
田名網さん

写真や映像を通して、企業の支援に取り組んでいこうと考えています。
家族写真は、個人や家族の人生ドラマに寄り添う仕事。一方で、企業にもドラマがあるわけですから、私たちがこれまで培ってきた手法は応用できます。

また、人生の終末期に死に備えて自身の希望を書き留めておく「エンディングノート」の普及も、「株式会社田村写真館」が挑戦するあらたな取り組みです。

田名網さん
田名網さん

現代は、70歳以上の6人に1人が独居老人だといわれます。そうした方々を支えるには、家族の絆が欠かせません。
エンディングノートを普及させることによって、一緒に制作したり、ノートをもとに話すことを通じて、家族の絆を強くすることにつなげていきたいんです。

絵本の世界のような写真館に、パン屋に、会員制度に、企業の成長、人生の最期を支える取り組み……「天使の森」の挑戦は、とどまるところを知りません。田名網さんの視線は、写真館が苦境に立たされる時代にあっても、未来を見据えています。

田名網さん
田名網さん

『天使の森』を、テーマパークのような写真館として、世界に誇れる基準にしたい。『日本一の写真館だ』って、海外の方に堂々と言えるクオリティを目指したいですね。その意味では、まだまだ。これからも挑戦を続けていきますよ。

本当にテーマパークのスタッフのよう。

森を育てるような挑戦のかたち

「子どもの頃、入学・卒業・成人式などの節目ごとに天使の森で写真を撮ることが恒例で。家族みんなの楽しみでした」
取材に同席していた小山市出身者が、まさに以前からの天使の森の利用者でした。

もしかしたら小山市の家庭にある家族写真の数は、他の地域よりも多いのではないでしょうか。そこには、数値化できないような家族の絆も、他の地域より強いのではないかと感じます。

大都市に拠点を持つメガベンチャーのような事業規模やスピード感はなくとも、「株式会社田村写真館」の存在が地域に対して持つ意義は、はかりしれません。

人の幸せを心から願う、その想いが種となり、ひとつまたひとつと家族写真という芽が吹いて、幸せな家族という草木が育ち……「株式会社田村写真館」の創業から70年が経った今、かつてひとつの種にすぎなかった想いは、「幸せな家族くらすまち」という、豊かな森になっています。

そして、森を育てるような、やさしく、50年後100年後まで見据えた挑戦は、このまちで今日も続いているのです。

 

■会社情報
 株式会社田村写真館
 ホームページ:https://www.angel-forest.jp//(外部リンク) 

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