「友井さん」と呼ばれ小山市民から親しまれている、友井タクシー有限会社。えんじ色の車体は、地域の方にとっての大切な交通手段として圧倒的な認知を誇ります。
「友井さん、〇〇病院にいるんだけど迎えに来てね」
まるで家族に電話をするように配車のお問い合わせが来るくらい、地域との関係が密接です。
小山駅、間々田駅を中心とした市街地を走るコミュニティバス「おーバス」にも参画。3路線で活躍しており、ここでも友井タクシーならではの気遣いのサービスが輝きます。
年配の利用者さんのなかには、焦りから急いで立ち上がる方もいらっしゃるのですが、乗務員さんは「まだ大丈夫ですよ、車が完全に止まってからお降りください」という優しいひと声をかけられます。利用者さんからは、「あの乗務員さんのファンなんだよ」と嬉しいお声をいただくこともあるのだとか。
「Love& Ecology」を企業理念とし、1957年から走り続けてきた友井タクシー。その言葉の通り、福祉と環境を考慮した数々のサービスを行ってきました。
今回は、統括部長である渡邉正道さんにインタビュー。人々の暮らし方、働き方が変化していくこれからの時代に、まちを支える交通会社としての挑戦についてお伺いしました。
福祉と環境がつくる、いきいきとしたまち
表立っては一般的なタクシー会社である友井タクシーですが、市民の生活に寄り添ったサービスを次々に生み出しています。「介護タクシー」を栃木県で一番に取り入れたのも、友井タクシーです。
介護タクシーは、社内にある介護ステーションを活用しながら、通院の介助を行ったりするものです。現在は、専用車両が3台、車椅子の乗り入れが可能な車両が10台活躍しています。また、利用者の方のご自宅にヘルパーさんが向かい、食事や入浴のお手伝いをするという居宅介護支援サービスも行っているなど、介護福祉にはひときわ力を入れられています。
現在のオーナーが医師ということもあり、福祉や介護、医療に積極的なのです。
特に福祉に関しては、オーナーのお父さんでもある先々代が車椅子を利用していたこともあり、当事者たちの気持ちを汲み取って事業を行っております。
それを受け、車椅子のままどこにでも行ける事業を守り続けたいと考える渡邉さん。その言葉の通り、友井タクシーの観光バス事業で最初に導入したバスには、車の後ろにエレベーターがついており、車椅子が乗り降りできるものであったのだそうです。徹底ぶりが伺えます。
老人ホームの方を、近くの桜の名所に連れて行ってあげたいという想いから、着想されています。
日頃から地域の方とコミュニケーションを活発に取る業種でもありますから、まちの皆さんにとって良いと思っていただけることを事業にしていきたいと常々思っていますね。
また、環境問題に対してもいち早く動かれています。
うちにはタクシー事業の他に自動車学校もあり、車を扱う仕事なのでどうしても排気ガスが出てしまいます。少しでも環境に配慮できればと、プリウスのタクシーを最初に導入したのもうちでした。
それは今から15年以上前、渡邉さんが入社するより前だったそうです。燃費の良いハイブリッド車両の導入には企業としての環境に対する真摯な姿勢が伺えます。
その他にも注目したいのが、今年で40回目となる友井タクシー主催の「福祉運動会」。
毎年11月3日、文化の日に、小山中央自動車学校の敷地を利用して身体が不自由な方たちの運動会を実施しています。主催の友井タクシーだけでなく、小山市、小山商工会議所やロータリーの方が後援・協賛し、イベントを盛り上げています。
小山市外からの参加者もあり、毎年楽しみにしてくださっている方もいるのだとか。
最初は、本当にレースや真剣勝負の競技が多かったのですが、昔からご参加いただいている方は年齢を重ねられていて。もう走れないよという方もいらっしゃるので、最近は玉入れや輪投げなどゆるく楽しめる競技も用意しています。
長く愛されているイベントだということが伺い知れます。
福祉が必要な方々が、年に1度、運動会で会うのを楽しみに小山市へ来る。それはまるで、まちで行われる小さなパラリンピックのようです。
まちの課題に密接に触れるからこそやりがいがある
タクシードライバーはまちに暮らす人々と直接関わる仕事だからこそ、市民が今、何に関心があるのか、何に困っているのかを体感しやすい仕事です。
地域の課題を解決するという視点から考えた時、ドライバーの方々が日々接している情報は地域をさらに発展させる手がかりになりえます。
気候変動、災害、感染症など予測不能な事態が起きるという前提の世の中で、誰かの役に立ちたいという若者が増えている今日。もし、タクシーを利用する方々とのコミュニケーションが、実は地域の未来づくりに役立つとしたら。さらに働きがいのある仕事という認識へと変化していくと感じます。
近年では、東京を中心に若いタクシードライバーが増加しているとのこと。タクシー会社に勤務するということに対して、渡邉さんは「すごく自由な仕事だ」と語ります。
タクシードライバーといえば、駅で待機して電車から降りてきた人を乗せたり、様々な場所を走って、お客さんを見つけたりする流しイメージがあるのではないでしょうか。一方で、友井タクシーでは電話による依頼が7〜8割、駅からのお仕事が3割ほどなのだとか。シフト制のため空き時間もかなりあり、体に負担の少ない勤務形態となっています。
地元の方に使っていただいているので、いつものお客様の送迎がほとんどです。運転するのが好きだったり、人としゃべるのが好きな人は、すごく合う仕事だと思います。上司に監視されるということもありません(笑)
友井タクシーでは、通常のドライバーとしてだけでなく、継続していくにつれて大型二種免許や、ヘルパーの資格を取得してステップアップしていくことができます。その中で、女性ドライバーの存在が貴重となってくるそうです。特にヘルパーの仕事は、実際に利用者の方のご自宅に伺って介護を行う仕事なので、女性の需要が高まっているのだとか。
やはり、男性より女性のヘルパーさんの方が、利用者さんの警戒心を解くことができると感じています。もちろんドライバーの仕事にしても同じです。利用者さんと向き合う仕事だからこそ、女性の方にも活躍していただきたい職種だと感じますね。
友井タクシーが挑戦への架け橋に
近い将来、車はガソリンではなく電気自動車になり、自動運転が普及し、モビリティに関する挑戦が多く生まれてくることでしょう。すでに、トヨタが静岡県裾野市に実験都市「ウーブン・シティ」を立ち上げています。
もしそのような挑戦を小山市で行う場合、市民の方々に信頼されている交通会社の存在が必要不可欠です。「友井さんがやるのだったら」という信頼関係が地域に根差したものになっているからこそ、挑戦の可能性はぐっと広がります。
タクシー会社って、許認可制の仕事なんですよ。国土交通省から許認可をもらって行う事業だからこそ、なんでもできる訳ではありません。本当は、年配の方には大幅に割引をしたり、人を運ぶというだけでも、もっともっと様々なプラスαのサービスの可能性がたくさんあるはずなんです。
既存の事業の延長線上では成長を目指すことは難しくなった時代、新しい挑戦には様々な壁が立ちはだかっていますが、次の一手に関して友井タクシーは前向きです。
近頃では、若くてチャレンジングな若者がうちにも来てくれています。テクノロジーに関しては私だけではなく、新しい提案をしてくれる人がいるのは大変心強いですね。
友井タクシーのような地域に密着した交通会社というフィールドで、若者からの発想で新しい挑戦ができるのは大きな魅力だと感じます。
交通会社が地域の発展を担っていく
最後に、渡邉さんはこうおっしゃいます。
小山市へ若い方に戻ってきてもらいたくても、働きたい会社がなければ誰も帰ってこれません。まちを魅力的にする、働いている人が魅力的になるということを、うちの会社なりに発信できたらと思います。
うちは、介護や医療を支える交通会社で居続けます。福祉のために交通がどうあるべきかを、これからも考えていきたいですね。
2021年2月からは、コロナ患者の方、濃厚接触者の方を搬送する「ケアタクシー」を始めた友井タクシー。社会課題を積極的に解決していこうという姿勢は、留まることがありません。
これから間違いなく、既存の交通の仕組みから変化することが必要な時代です。小山市がそれを推進してく未来の可能性は、このえんじ色のタクシーに秘められているのかもしれません。
■会社情報
友井タクシー有限会社
ホームページ:http://www.tomoi.jp/(外部リンク)